PLAY No,12
#山を走る
TRAIL RUNNING
「奥多摩を走りに行きましょう」
そう言い出したのは遠藤健太さんだった。
季節は秋を迎え、山頂は冬を迎えようとしている。
もう少しだけ、土の感触を味わいながら走りたいと思った。
山ラン仲間の渡邉ゆかりさんに声をかけ、
関東平野の西の端を一緒に目指した。
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トレイルランナー
Yukari Watanabe渡邉ゆかり
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スカイランナー
Kenta Endo遠藤健太
「御岳登山ケーブルは、標高差400mを6分ほどで結んでいる。山の上に上がると小さな集落や、お土産物屋さんが並ぶ参道なんかがあって、すごくレトロでいい雰囲気なんですよ。そのあたりはゆっくり歩いて、御嶽神社を過ぎたあたりからちょっと走りましょう」遠藤さんは、少し弾んだ声で話してくれる。
12月の早朝とあって気温は6℃。ケーブルカーを待つ人達はしっかり冬の装備だが、遠藤さんと渡邉さんはラン用のショートパンツ姿だ。
「このくらいじゃないと、走り始めたら汗だくになっちゃうから。そしたら汗が冷えて、かえって寒いんですよ。さすがに今朝は寒いんで、ちょっと何か着ますね」と渡邉さんは、防寒着を取り出す。
遠藤さんは「冬の関東平野はよく晴れますからね。雪もほとんど降らないし。僕、大学生の頃はこのあたりの山を走り込んでたんですよ。なので、この気温は低いけど空は晴れてるっていう感じはすごく懐かしいです」と話してくれる。
こうして2人はケーブルカーに乗り込み、冬の奥多摩山ランが始まった。
ふだん北関東の山を走っている渡邉さんは、奥多摩にはあまり馴染みはない。
「以前にハセツネに出たことがあるんです。そのときと山の感じはだいたい同じだなーって思ってました。大きな杉の木があって、踏み固められた土の道が伸びてる。関東の里山~って感じですね。僕はなんとなく土地勘があるのと、地図である程度の確認はしているので。体調や気分でどこまで行くかを決めようと思ってます」遠藤さんは、ずっと嬉しそうだ。
「ここはホントに走って楽しいコースなんですよ。ルートのほとんどは稜線ですけど、杉林の中を抜けたり、根っこだらけの急坂を駆け下りたり、ときには手足を使ってよじ登るようなところがあったり。ただ走るだけじゃなくて、山に全身で取り組んでいくような手応えがあるんですよね」
やがて2人は大岳山の山頂に到着した。
眼下には八王子の町が見えている。冬の関東ならではの澄んだ空気と、カリッとエッジの立った風景。それをしばらく見つめると、2人は山道を駆け始める。もうちょっとだけ走ろう。この凛とした空気と、暖かな日差しと、柔らかな土の感触を楽しもう。
Field
奥多摩エリア(御岳山、大岳山)
秋冬の山ラン
の魅力
「秋冬の魅力っていうことなら、気温と景色ですね。単純に気温が下がるから走っていても快適で、走りやすい季節だなって思います。山も紅葉したり、空気が澄んで遠くの景色がはっきり見えたりするんで、目に入るものも変化があって楽しいですよね」(遠藤)
「うまく言えないけど感触、ですかね。秋が深まってくると、空気もキュッと冷たくなってきますよね。あの心地よい寒さのなか、ふかふかに積もった落ち葉を踏みながら走るのは好きですね」(渡邊)
秋冬の山ランの服装
「1番避けたいのは汗冷えです。なのでドライナミックのようなベースレイヤーを着て、吸汗速乾に優れたウェアを重ねます。体が汗で濡れたままだと、稜線で一気に体が冷えてしまいますからね」(遠藤)
「私も汗冷え対策を重視したいので、体温調整のしやすいアイテムを選ぶようにしています。ジャケットは脱ぎ着のらくなものにして、ヌケのいいミッドレイヤーで放熱しやすくするのはすごく大事だと思います」(渡邊)
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WEAR
短パンで山、っていうのは普通に登山してる人たちからしたら考えられないかもしれないですけど、運動強度が上がっても汗を抑えて汗冷えしないように、ってことなんです。山ランだからこれ、じゃなくて、ウェアは気温やどれくらいの強度で走るのか、まで含めたトータルで判断するようにしてますね。
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INNER
これはもう、汗冷えしないようにっていうことに尽きると思います。ドライナミックのような肌に汗を残さないインナーは絶対。その上に、吸汗即乾のものを重ねていくといいですよね。
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RAINWEAR
ティフォンを使っています。ストレッチもきくし汗がこもらない。ウィンドブレイカーとして着ていてもサラッとした着心地で快適なんですよね。これがあれば大丈夫だな、って思ってます。
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WEAR
季節的に走り出しはどうしても寒いんですけど、そのうち絶対暑くなる。だから体温調整のしやすい、1枚1枚が厚すぎなくて、脱いだり着たりがラクなウェアがいいと思います。
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INNER
インナーが汗で湿ってしまうと、体が冷えてくるんですよね。だから肌をドライに保ちながら、汗を早く乾かす。インナーはそれを考えながら選ぶようにしています。
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RAINWEAR
お天気を見ながらですけど、私は常にヘビーなレインウェアを用意するっていうことはないかな。雨が降りそうなときはティフォン50000ストレッチジャケット、用心のために持つならブリーズバリヤのワイルダーライトジャケットあたりを使ってます。
山ランしていて
最高だと思うこと
「山ランは次の1歩をどこに置くか、どのくらいのペースで走るか、みたいなことも全部考えながらなので、普通のランよりトライアンドエラーが多いんです。それだけに全部がうまくいくと、達成感や爽快感があっておもしろいですね」(遠藤)
「走っていて、目の前の景色がぱっと開けるような場所に巡り合うことがあるんですよ。そういうときは感動しますし、思わずわー!って声が出ちゃいます。雪好きなので、それが雪景色だったりすると、なお最高ですね」(渡邊)
秋冬ならではエピソード
「汗冷えからの低体温症一歩手前、は何度かやっちゃいました。気温が低いと調子よく走れて、思った以上にかいた汗が稜線の風で一気に冷えるんです。今はレイヤリングには気をつけてるので、ほぼなくなりました」(遠藤)
「私も秋冬の失敗例といえば汗冷えです。体を冷やしちゃうとホントに動けなくなるんです。冷えたって体で感じる前に、アタマで考えて汗冷えしないよう、マメに脱ぎ着しています」(渡邊)
秋冬の山ランで
気をつけること
「繰り返しになりますが、やはり汗冷えには気をつけてほしいです。そのためには適度な薄着で汗の量を抑える工夫も必要です。あとは日暮れが早いので、余裕を持ったプランを立てることだと思います」(遠藤)
「落ち葉や雪で路面が覆われてしまうと、根っこにつまづいたり、段差で足首をひねったり、思いがけない転倒につながることもあります。不意の障害物には注意ですね」(渡邊)
秋冬におすすめの山
「関東なら陣場山の縦走ルートや、今回走った御岳山ですかね。雪の少ない地域で地形が穏やかだし、ルートも整備されてるので走りやすいですね。他には魚沼アルプスの成倉山も最高です。時期に合わせて紅葉を追いかけたりするのもいいと思います」(遠藤)
「日光白根山とかいいですよね。ゴンドラで一気に上がれるので、そこで走ったり歩いたりして山を楽しんで、元気があったら自分の足でおりてくる、っていうのをススメたいですね」(渡邊)
これから始める人へ
「標高の高い山だと、思った以上に季節が進んでいて、行ってみたら冬!ってことがあります。それなりの装備が必要になるので下調べをしっかりすること。汗処理と同時に体温の保持にも気を配ってほしいです」(遠藤)
「慣れてきたらレースも視野に入れてみてほしいですね。私はそれが大きなモチベーションになりました。やっぱり目標ができると楽しさも濃くなっていくので。何かを目指しながらも、楽しく走るってことを続けてほしいと思います」(渡邊)