PLAY! #わたしらしく山を楽しむ

PLAY No,02

探検家

Daisuke Takahashi

髙橋 大輔

肩書で言えばノンフィクションライターということになるだろう。しかし髙橋大輔さんの活動をひとことで表現するのは難しい。

イメージとして一番近いものを挙げるとすれば、テレビ番組の「ミステリーハンター」だ。歴史や伝説の中にある謎に迫り、誰にもできない手法で謎を解く。そして書籍や雑誌の記事にまとめ上げる。それが髙橋さんの活動だ

その興味は多岐に渡る。浦島太郎の正体を探り、ロビンソン・クルーソーのモデルとなった人物の生活痕を南半球の孤島に求め、劔岳に初めて登ったのは修験者ではないかという仮説を検証する。
「伝説とか伝承って、その話の元になるような出来事が実際にあったんじゃないかと思ってるんですよ」
煙が立ったのなら火は焚かれたのではないか、というのが髙橋さんの基本スタンスだ。それを確かめるために書物を読み、古い資料にあたり、多くの人達から話を聞き、オカルトと一蹴されないように科学的検証を重ねていく。そうして誰もが忘れ、歴史の中に埋もれるわずかな焚き火の痕跡を、謎解きの手法ですくい上げているのだ。

秋田市在住の髙橋さんは、地元の伝承にも深く興味を示している。そのひとつが秋田県鹿角市に位置する黒又山だ。

「この山は、日本にいくつかあるピラミッドのひとつじゃないかって言われたんです」

地図には標高280mと記されるが、麓の標高は190mほど。頂上までは90mしかない。この小さな里山が謎の山、とされてきたのにはいくつか理由がある。
「妙に整った三角形もそうですし、磐座(いわくら=神が宿るとされた大きな石)や、本殿とは別の所に遥拝地(ようはいち=その場所を見渡して祈りを捧げる場所)があることも挙げられています。が、私としては疑問も残しています」
実は髙橋さん自身、黒又山ピラミッド説からは早々に離れていた。それでも髙橋さんが黒又山に引かれるのは、自身で調査しているうちに歴史的かつ文化的に、興味深いエピソードが頻出したことからなのだ。
「江戸時代の薬師神社に対する病気治療に関わる想いや、そこからつながる熊野本宮との関係。ここでおこなわれている春彼岸の伝統行事オジナオバナが、20km近くも離れた五ノ宮嶽(ごのみやだけ)という山の文化とリンクしていることなど、この山には気になることがたくさんあります」
こうした事柄を作り上げているのは、黒又山に対する深い山岳信仰なのではないかと考えているのだ。
「じゃあ、その信仰は何に基づくものなのか、なんです。僕らが学校で習う歴史は、日本という国を大きく俯瞰したものです。だけど地方の歴史を細かく見ていくと、そこにはリアルな人の暮らしがあって、今とは違ういろんな人のいろんな考え方が浮かび上がってきます。そういう歴史や文化を知ることで、地域に対する理解の解像度が上がってくると思うんです。自分を取り囲むものを理解することで、地域に対する愛着が深くなる。裏山が裏山ですまなくなり、伝統的な風習や自然を見つめる気持ちが湧き上がってくる。それは非常に豊かなことだと思います。そしてその愛着は、知ることから始まると考えています」

髙橋さんは言う。
「昔の人の感性を、今の自分達のものさしで図ろうとすると無理が出てくると思うんです」
だからこそ、目の前にある遺物、残されている資料などの事実を元に、当時の人の心の奥に流れる美意識や価値観を推し量る想像力が必要になる。
たとえば黒又山からわずか2kmの距離に、先日世界遺産に指定された大湯環状列石(おおゆかんじょうれっせき)がある。縄文時代に作られたとされるここのストーンサークルには「石英閃緑ひん岩(せきえいせんりょくひんがん)」と呼ばれる石が使われているが、これは近くの大湯川の上流でのみ産出される珍しい石だ。希少な上に重く大きな石をわざわざ川から運び上げてきたからには、絶対にこの石を置きたい、と思ったはずだ。
「なぜそう思ったのかを知りたいんです。例えばこの石は少し緑ががっているんです。もしかするとそれが新緑の芽生えを思わせたんじゃないか。仮にそこに春の訪れを待つ気持ちが込められていたとしたら、縄文の人たちの豊かな感性が見えてくると思うんですよ」
こうした想像力を支えるのは、政治、地理、食事、伝統芸能、植生、農業といった、ジャンルを超える膨大な知識だ。髙橋さんの活動の大半が資料にあたることに費やされるのも、無理はない。

「実は黒又山の山頂にある社にも、この石英閃緑ひん岩が使われているんです」
髙橋さんは何度目かの黒又山実地調査に向かいながら話してくれた。
「社の中に炉のようなものがあって、それをつくっている石が石英閃緑ひん岩なんです」
なぜその石が、黒又山の山頂に運び上げられたのかはわからない。もしかすると縄文の人が春の息吹を感じた石は、時を経て命の芽生えや五穀豊穣といった願いを向けられるものに変わっていったのかもしれない。
「今は何もわからないです。すべて自分の単なる仮説です。だけど黒又山を調べて、大湯環状列石を調べて、日本の他の山の伝説や伝統芸能を調べていくうちに、そこに通底する思想が見えてくるんじゃないかと思ってるんですよ。出口はバラバラでも同じ源流にたどり着くんじゃないかと思ってます」

つまりそれは、人の心の本質を探り当てるということだ。

多くの事例を知ることから、長い時間の中に通底する、人の心そのものの姿を演繹的にあぶり出そうとているのだ。
そのために髙橋さんは縦横に思索を巡らせ、仮説を立て、現場に足を運ぶ。今回の実地調査の目的は石を探すことだった。
「磐座として使われたような、大きな石がどこかにあるんじゃないかと思って」
そう言いながら、ヤブを漕ぎ、道なき道を歩く。目指すものが、やすやすと見つかる場所にないことだけは分かっている。そうして時に中程度の石であっても見つけるとスケッチをし、巻尺でサイズを測ってメモをつくる。
「現場に行かないで資料だけ読んでいても発見は少ないと思うんですよ。たとえば2つの資料があって、読んでるだけでは気づかない結びつきの糸みたいなものを現場で発見することがあるんですよね。一見すると無関係に思えた地元の伝説と、学校の先生がガリ版刷りで残した話とが、現場で見た景色で繋がったり。そういう糸は現場にしかないと思ってます。まぁ、その糸が一本の線になるまでにはけっこう時間はかかりますけど」

 伝承の元となった出来事は、歴史の中に埋もれている。その痕跡を繋ぐ糸がつながった時、髙橋さんの眼前には壮大な物語絵巻が立ち上がってくるのだろう。そこには人の営みの本質が描かれているかもしれない。その瞬間を求めて、髙橋さんは知と検証の旅を続ける。

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Daisuke Takahashi

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