PLAY! #わたしらしく山を楽しむ

PLAY No,01

動物写真家

Kei Sato

佐藤 圭

「オコジョだ! 撮りたい!!」

大雪山、黒岳。それまで岩陰にしゃがんで『何かが起こる』のを待っていた佐藤 圭さんは、思いがけない被写体の登場に弾んだ声をあげた。

筆者としてはこの後、跳ねるように岩の上を走っていったと書きたいところだし、間違いなく佐藤さんの気持ちははやっていただろう。けれど実際の佐藤さんは待機中も離すことがなかった80-400mmの望遠レンズをつけたNikon D5を抱えると、オコジョを見つめたままダイヤルを操作し、ススッと岩から岩へと歩を移して、流れるようにカメラを構えた。
「やりましたね!オコジョは通い詰めてもそうそう撮れるもんじゃないから。いやぁ、嬉しいです」

  • エゾオコジョ
  • エゾオコジョ

実はこの日の天候は濃霧で強風。時折、大粒の雨がバラバラとジャケットを叩く。
7月の終わりとは言え山は肌寒く、決して登山が楽しい天候ではない。
「だけど動物写真を撮るにはいい天気です。今日の狙いはナッキー(佐藤さんは親しみを込めて、エゾナキウサギをこう呼ぶ。ちなみにエゾシマリスはシマリーだ)だったんですよ。霧が出ているからタカのような空からやってくる天敵が活動しにくくなって、草食系の動物たちが出てきやすいんですよね。あと、天気が悪いと人も少ないですし」
そう言いながら佐藤さんは嬉しそうにジャケットのファスナーを引き上げる。
「いつもだったらあと8時間くらいここに居るんですけどね。風も強くなってきたし、下山しますか。オコジョ撮れたし!」

2021年11月には初の写真集「山の園芸屋さん エゾシマリス」を刊行。誰も見たことのない、動物たちの自然な表情を捉える写真家として、佐藤さんは高い評価を受けている。
が、ここに至るまでの道のりは平坦ではなかった。
「夕日や風景、動物の写真が好きで撮影を続けていました。あるとき、同じ道北で鷲の写真を40年以上撮影している自然写真家の泊和幸さんに出会いました。写真の技術も大事だけど動物のことをよく観察しななさいと教えてもらって、それがすごく良かったです。実際、動物の生態や他の動物との関係性を知って、動物に寄り添うことで写真が良くなったと思います。あと、知識が増えてくると、自分が撮りたいのは単なる動物の姿じゃなくて、動物が生きてる様子なんだなって思えたんですよ」

佐藤さんに会って、動物写真家に必要な要素が3つあると思った。
フィールドとスタイル、そして忍耐力だ。

佐藤さんはまず、自分のフィールドで動物を撮りたいと思っている。 「僕は、深く深く感じられるものを撮りたいと思ってるんです。だから動物が素のままの姿で活動してる場所を探して、そこにそっと行って撮りたいんですよね。そういう場所を探すのは大変ですけど、苦労すればするほど、写真に深みが出るような気がしています。簡単に動物に会える場所もあるんですが、そこで撮影した写真は達成感がないし、キャプションもなんだか薄っぺらくなってしまいます」
この自分のフィールドで、という志向は佐藤さんの撮影スタイルにも繋がっている。できるだけ動物にストレスを与えたくないのだ。
「そのためにはなるべく自分の気配を消して、岩とか木とかに溶け込んで、動物に余計な警戒心を与えないようにしたいと思ってるんですよ。だから他に人がいるとやりにくい、っていうのもありますね」
そのために必要なのが待つことだ。
「ほんと明け方4時からお昼2時まで、ただ待ってるだけで何も起きないこともあります。10時間何も起きないと、気持ちが折れそうになります。でもそこから劇的なことが、例えば打ち上げられたアザラシの横で5時間も警戒していたオオワシが、意を決したように夢中でついばむようなことが起きるんですよね。
だからって、その瞬間が起きる1時間前に来ればよかった、ってのは成立しません。やっぱり10時間待って、気配を消して。その積み重ねた時間があるからこそ、なわけで。
撮れた時には、待ってる時間を全部打ち消すくらいの達成感があります。10時間の苦労なんて吹っ飛びますね」

動物写真は自分に対する厳しさの結晶だ。生き物たちはこっちの都合に合わせてはくれない。だからこそ、行くしかない。そして、待つしかない。
「数年撮影を続けてきたので、今はどのフィールドにどの時期に行けば何が撮れるなっていうのがだいたい分かります。子育て中かな、巣立ちする頃かな、活動期だなとか、今はたぶんこんな感じだろうというのは予想がつくんです。
けどそれ以上に、ナッキーが季節のお花の中で立ち止まってくれるかも知れないし、キツネに驚いて逃げてく様子が撮れるかも知れない。そういう思いがけない一瞬は、当たり前ですけど現場に行かないと巡り会えないですよね。 だから行くことが大事だし、フィールドにいる間はずっと集中してます。リラックスはしてますけど、必要以上に音は立てません。静かに気持ちを研ぎ澄ませてると、何かあった時に風景の中にピッと違和感を感じるんです。で、撮る。それを一日中やってます。
よく登山の人たちが、朝も夕方も同じ姿勢で同じ場所にいて、まだここにいたの?って驚かれることがありますけど、僕にとっては普通のことなんですよ」

佐藤さんが写真に取り組む姿勢は驚くほど求道的だ。誰よりも早く現場に行きたいからと朝一番で山に入り、登山道は駆け足よりも速いペースで歩く。決して体力があるほうではないというが、
「他の人が動物を驚かせる前に、そっとその場所に行きたかったんですよ」
という。だから徹底して身体を鍛え、山中でほとんどの人を追い抜けるスピードを手に入れた。
佐藤さんは言う。
「僕は自分の人生を豊かにするために写真家になりました。写真を撮って、作品を発表して、自分が突き詰めてきたものでみんなに喜んでもらうのが夢なんです」

  • エゾオコジョ
  • エゾオコジョ

最後に聞いてみた。動物写真家になるために、必要な要素を挙げるとしたら何でしょう? しばらく宙を見て考えていたけれど、佐藤さんはうなづくようにして答え、笑った。
「情熱。それから体力。機材が要るからお金もいりますね。あれ? いっぱいありますね」
その直後、でも、と真顔になって、こう結んだのだ。

「探究心、だと思います」

撮りたい、というエゴよりも、被写体のことを知りたいという気持ち。それがあれば、他のことはどうにかなります、と。
採算や効率といった利益の天秤ではなく、探り求める気持ちにのみ従う。それが佐藤さんのやり方だ。だから佐藤さんは重いレンズをものともせず、天気が荒れていようと山を、海岸を、河川敷を歩き、何かが起こるまでひたすら気配を消して待つ。

そうして、誰も見たことのない素のままの動物の姿を、優しくていねいに切り写してくるのだ。

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Kei Sato

佐藤 圭

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https://www.keisato-wildlife.com

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